設立趣意
1996年、世界保健機構(WHO)は、暴力は社会でとりくむべき重要な健康課題であることを世界に呼びかけ、暴力がいかに個人および社会の健康に大きな影響を及ぼしているか詳細に報告しました。このような世界的な動きの中で、日本国内でも、DV、児童虐待、高齢者虐待に関する法律が制定されました。最近では110年ぶりに性犯罪に関する刑法が改正されました。しかし近年、アメリカ疾病管理予防センターが報告したACE Study(子どもの逆境体験に関する研究)の結果は、世界に衝撃を与えました。幼少期から、DV(ドメスティック・バイオレンス)目撃や虐待その他の暴力をより多く体験した子どもは、その後の健康状態が明らかに悪く、短命になっていました。現代社会は、世代を超えて影響を及ぼし次世代を蝕んでいる暴力に対し、その対応を根本的に考え直す必要性を迫られています。
身体的な暴力、殺人、テロ、戦争といったものは、暴力であり人権侵害であり犯罪である、とわかりやすいのですが、家庭内でおこっているDVや虐待、とくに心理的・精神的・性的暴力は見えにくく、被害は長期にわたります。また、学校、職場におけるいじめやハラスメントも同様に見えにくく、力関係の中で、弱い者が助けを求められず、長期に暴力を受け続けます。被害を受けたものは、心身ともに病み、社会生活ができなくなります。時には自殺や虐待死という傷ましい出来事になってようやく社会に知られます。死に至らなかったとしても、暴力が、被害者のその後の人生を奪っているということは、社会にも加害者にもあまり知られていません。
私たちは、医療の現場や、地域におけるDV相談や自殺予防のアウトリーチ活動に取り組む過程で、暴力被害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を中心とした健康問題が、急性期の対応の不整備に始まり慢性化して家族全体の健康を蝕んでいることに気づきました。とくに隠れた問題である性暴力被害者へのアウトリーチは喫緊の課題でした。
そこで2016年1月5日、医療・司法・行政にまたがる支援を一カ所で総合的に提供するために名古屋第二赤十字病院内に「性暴力救援センター日赤なごやなごみ(以下なごみ)」を開設しました。病院拠点型ワンストップ支援センターの特徴を活かし、性暴力被害者支援看護職(SANE)を活用し、24時間体制で被害直後の緊急医療支援、心理的支援とともに中・長期に及び苦しんでいる性暴力被害者支援を行っています。
開設して3年間で4000件近いご相談を受け、300名以上の方が来所されました。また、なごみを拠点として地域の病院、クリニック、警察、弁護士、民間団体、行政、学校が協働して 性暴力被害にとりくむことで、家庭・学校・職場・地域といった個々の生活の側面でおこっている暴力の影響が、すべてつながって世代伝達される悪循環が起こっている状況が見えてきました。
このような社会状況を踏まえ、なごみと協働して、人の暮らしのあらゆる場面における暴力の撲滅と人権擁護を目指し、ひとりひとりが安全で安心にくらせる社会を創造し、人々の生涯にわたるウェルビーングの向上に寄与するための「一般社団法人日本フォレンジックヒューマンケアセンター」の設立を提案します。
目的
当法人は、家庭・学校・職場・地域など、人の暮らしのあらゆる場面における暴力を人権侵害と捉え、これらの暴力の撲滅と人権擁護を目指し、そのための社会資源を幅広く体系的につなぎ、ひとりひとりが安全で安心に暮らせる社会を創造し、人々の生涯にわたるウェルビーイングの向上に寄与することを目的とする。
事業内容
- 人権擁護と暴力撲滅のための積極的な予防啓発事業
- 社会における健康教育および健康経営に関する支援事業
- ドメスティックバイオレンス(DV)・性暴力被害に対する被害直後から中長期への継続した支援介入システム構築の推進事業
- 性暴力被害の予防・介入・回復を促進するための司法・行政・教育・保健医療福祉関連機関および地域住民のネットワークの構築に関する事業
- 性暴力被害者のための病院拠点型ワンストップ支援センターの運営及び設置支援事業
- トラウマインフォームドシステムの普及とPTSD治療およびケアに関する事業
- 人材育成と教育・研修事業
- 性暴力被害者支援看護職の資格認定制度創設に向けた支援事業
- 国内外の上記各号に関する研究の振興に対する事業
- その他当団体の目的を達成するために必要な事業
- 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業
NFHCCでは「女性と子どものライフケア研究所」から性暴力被害者支援看護師(SANE)養成プログラムを中心とした事業を引き継ぎ、暴力被害者のPTSDの治療とケアについても行っていきます。
※「街角メンタルヘルス」については別の窓口を準備してお知らせする予定です。